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Selfishly

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The fun is the back 遊園地編・前編


スローライフt Pa 6

  ~The fun is the back ~《遊園地編・前編》





「・・・済まない・・・」
珍しくも、弱弱しい声で、そんなセリフを告げてくるのは、
エドワードの上司であり、後見人であり、恋人であり、同棲生活の相手でもある、
ロイ・マスタングだった。
若くして将軍の地位に着き、東方の司令官も務める若きエリートのこの男が、
こんなに弱り果てた情け無い姿を曝しているなんて、有り得ない事態だし、
・・・ちょっと、人には見せられない情けなさかも知れない。

ここは、セントラル郊外にあるアメトリス最大のテーマパークの園内だ。
『夢の楽園』と自称して宣伝するだけあって、園内には大掛かりなアトラクションや
小さな子供も楽しめるキャラクター達や、キャラクターの街があり、
寒い冬の日だと言うのに、なかなかの盛況ぶりだった。

で、今二人はどこに居るかと言うと、少々人込みを離れた憩いの広場の外れのベンチで
座っている。 正確には、一人はへばっていて、もう一人が心配そうに診ている状態だ。

「いいって、無理に話すことないから、ほら、ちょっとここに横になって」

横に座ったエドワードが、自分の膝上をポンポンと叩いて示し、
青白い顔色に青色吐息の連れに、そう声をかけてやっている。
エドワードの珍しい大胆な行動に、ロイは内心『おやっ?』と驚き喜んだが、
表面上はあくまでも、具合の悪さを装って、
「じゃぁ、少しだけ・・・」などと殊勝な言葉を呟きながら、
嬉々として、恋人に膝枕をしてもらう事にした。

昨夜のうちに、さっさと移動した二人は、昨晩の間中ホテルで恋人タイムを
満喫して、今日はゆっくりと朝寝坊をしてから園内を探索に出かけたのだ。
有名人二人連れの事もあって、それぞれの装いも普段とは少しだけ変えて
変装などもしている。

ロイは纏う色彩も、周知に知られている為もあって、今は少し明るめの栗色に髪を染め上げ、
伊達めがねをかけている。
そんな格好をすると、童顔がさらに強調されて、下手したら大学生か院生のようにも見える。
・・・恐るべき三十路過ぎだ。
そして、エドワードはと言うと、ロイが髪の色を変えるのを断固として否定して、
目立つ金髪はそのままだが、三つ編みにしたお下げの尻尾の先に、
明るい紅色のリボンを括り付けている。
そして、両脇に少しだけ残して垂らしている髪は、器用にカールしてある。
当然、エドワードにそんな芸当が出来るわけ無いので、嫌がるエドワードを
宥めすかして、ロイが施したのだ。
白のハイネックのセーターに、明るいオレンジの厚手のダッフルコートを着、
黒のスリムパンツと編み上げのブーツを履いて完成した装いは、
エドワードの綺麗な容姿のおかげで、これが青年だと思う者は皆無だろう。
ロイは、勿論それを狙っての事だったが、エドワードにしてみれば、
いつもと違う服装をしている位しか、思っていない。 
彼が自分のことに疎いのも、ちゃんとロイの計算済みだ。
すれ違う男性の殆どはエドワードに憧憬の視線を送り、その後、ロイにはやっかみの視線を投げ。
女性達は、ロイに好意の視線を廻らした後に、横に立つ美女を見ては嘆息をついて
すれ違っていく。

ロイにとっては、大変気分が良いことこの上ない。
本当は、別に今日1日中・・・いや、休暇中ずっとだって、ホテルでゆっくりと
二人きりで過ごすのも良いかと思っていたのだが、こうして自慢げに
エドワードを連れ歩けるなら、日中の時間位は構わないかと言う寛容さも生まれてくる。
それに、エドワードが園内のアトラクションに甚く興味を惹かれていたのも知っていた。
活動的な彼の事だ。 せっかくここまでやって来て、日がな一日ホテルで過ごさせるのは
少々、可哀相でもある。

そして、異変は3つ目のアトラクションに向かう途中に起こった。
1つめは、園内でもっとも人気の高い探検コースターに行く。
うんざりする待ち時間も二人で待てばあっという間で、
始終、期待にワクワクしているエドワードの笑顔に、ロイは勿論、
周囲の男どもも自分の彼女の目を掻い潜って盗み見しては、堪能していた。
まぁ、女性陣も同様な事をしてロイを見ているのだから、
男どもばかりを責めるわけにもいかないだろう。
・・・しかも、女性は更に厳しい。
ロイに視線を投げかけ、ついでに自分の連れ合いを見比べては、
嘆息を付いている者までいたのだから。
男より女性のほうが、高望み度が高いのかも知れない・・・。

そして、そんなこんなでコースターに乗り込む前に、
この園内の名物の一つ、アトラクションの説明を人の良い、
躾けの行き届いたスタッフが、楽しげに観客を湧かせて、いざスタートをきる。

「エド、怖かったら私にしがみ付いていても、構わないよ」
 
なんて言うのは、多分、どの席にも座っている男性も同じだろう。
違っていたのは、連れ合っている相手の度胸だ。

「えっ? 何か言った? 
 なぁロイ、これって最大の落下ポイントでは手を上げるんだぜ。
 俺、最初から手を離しておこ~と」

全く脅えることも、物怖じする事もなく、さっさと邪魔な荷物は足元に放り込み
手をぷらぷらさせながら、スタートを今か今かと待っている。
少々、ロイの思惑とは外れたが、相手がエドワードだ。
そんな甘い時が過ごせるわけはなかったな・・・と、開き直る。
そして・・・。

「やっほぉー!!」

大喜びで声を上げる横では、妙な奇声が混じっている。

「ヒッー! エ、エド、あ、危ない・・・から、ギャッー
 す、座って・・・ヒィー」

乗り出すエドワードを引き止めるように見えるが、実はただただ
縋り付いているだけなのだ。

最大の落下ポイントでは、諸手を高々と上げて満面の笑顔のエドワードと、
悲壮な苦悶の表情で、エドワードの腰にしがみついているロイの様子が、
これも園内の名物の1つ、瞬間を納めるピンポイント撮影でしっかりと証拠写真を
撮られていたが、そんな存在を知らない二人は購入する事もなく、
世紀に残すべき決定的証拠写真は、買い手が無い為に闇に葬り去られていった。

「はぁ~、面白かったよなー。
 さすがは、園内で一番の人気があるだけあるよ。
 また、時間が合ったら乗りに行こうぜ!」

「・・・あ、ああ・・・そうだね、おもしろかった・・ね」

意気揚々と出てきたエドワードと、妙に足元が覚束ないロイ。
が、別にロイがそれを恥じる事も無い、意外と同様の光景が
コースターが終着に着き降りてくる観客の中に、
ちらほら見られる事なのだ。
世の女性は、多分に男性よりたくましく出来ているものなのだ。
夢の世界で、男の尊厳と、甘い夢を散らせる者達は、
年間を上げて、結構な数に上るとか・・・。

既に次のターゲットを物色しているのだろう。
キラキラと瞳を輝かせているエドワードに、ロイが控えめに提案を試みる。

「え、エドワード。 疲れただろ?少し、やす」
「よぉーし! 次はあれだー。 ロイ、早く行こうぜ、今なら次の回に
 乗れそうじゃん」

ロイの提案は、最後まで告げることもないまま、次へのアトラクションに
移動することを余儀なくさせられる。

珍しくも、余り待ち時間がなかったのは、このアトラクションが
結構、どこでもある物だからかもしれないが、それも今のロイにとっては
災いしたのは間違いない。

過激で過酷な乗り物の次は、回転系だ。
遠心力を使って、高速で回転するだけの乗り物だが、
意外に馬鹿に出来ない刺激がある。
スタッフの言いつけを守らないマナーの悪い乗客の中には、
ポケットを膨らませていた、小銭やら財布ごとやら円の向かいの他所の乗客に
ばら撒く者も居て、降りた後に周囲の冷たい視線の中、こそこそとかき集めている姿も見える。

エドワードは、今度は手どころか足まで投げ出して、浮遊感を楽しんでいるようだ。
その横では、既に言葉も出ないのか、真っ青な顔で安全ベルトにしがみ付いているロイがいた。
しがみ付くものが、それしかないタイプなので仕方が無い。

「結構、楽しめたよな。 俺、遊園地は行った事なかったけど、
 こんななら、各地のに行ってみてもいいかも」

軽い足取りで、ロイに戦慄を生ませるような言葉を語りながらも、
エドワードの行き先がブレる事はない。
どうやら、次の乗り物は、概に決まっているようだ。

「なぁ、ロイ。次はあれに乗ろうぜ?」

と声を掛けてみるが、返答が聞こえてこない。
不思議に思って、少し後ろを歩いていたロイを振り返ると、
少しどころか、結構後方でじゃがんでいる連れを発見する。
エドワードも、さすがにロイの様子のおかしさに気づいたのか、
慌てて走りより、しゃがみ込むロイに合わせて、膝まづく。

「ロイ? どうしたんだよ? どっか悪いのか?
 何か、あったのか?」

顔色を無くして、ロイの様子を窺う。
浮かれすぎていたが、ロイは有名人で狙われるターゲットにもなりやすい軍の高官だ。
自分が隙を作りすぎていた間に、もしかしたら・・・。
エドワードは、自分の迂闊さを呪う。 護衛も兼ねなくてはならない立場の自分が、
守るべき者を忘れているなんて。
必死に、ロイを窺うエドワードの前では、顔色が紙の様に白くなり、
一目で具合の悪い事が見て取れる。

「ど、どうしよう・・・、軍、軍に連絡入れなくちゃ」

何か薬物を混入されるような事が、あったのかも知れない。
エドワードは周囲に視線を向けると、近くを通るスタッフに目を遣り、
呼びかける為に、声を出そうとした瞬間。
自分のそでを引く相手に遮られる。

「何だよ? 直ぐに軍に連絡入れるから」
「ち・・・違う・・んだ。 別に・・何か・・あったわけじゃ・・・」

「じゃ、じゃあ、どうしたんだよ?」
心配のあまり涙声になっていたエドワードを救ってくれたのは、
異変を察知して、傍に寄ってきた園内が誇るスタッフだ。

「どうしたんですか?」
心配そうなスタッフの声に、縋るようにエドワードが状況を伝える。

「ああ、乗り物酔いですね?」

明るく返った返答に、一瞬、思考が止まる。

「・・・はっ? 乗り物・・酔い?」

「ええ、ご気分が悪くなられたんですよね?
 宜しければ、救護室がありますので、お連れしましょうか?」

良くある事なのだろう。 別段、驚くこともなく、にこやかに
テキパキと対応してくれる。

「・・・どうする? 救護室、行く?」

これは、ロイに向けてだ。
ホッとしたら、気が抜けた。 エドワードは、脱力しきった声で訊ねる。

その後、それは嫌だと態度で示すロイの意志を汲んで、
親切なスタッフに、休める場所を聞いて、そこで一休みする事にした。
(この間、スタッフが立ち去るまで、ロイは決して顔を上げようとしなかった。
 それも、良くある事なのだろう。 お大事にの言葉を添えて、スタッフは
 速やかに撤収していく。 お客様の尊厳を守るのも、スタッフサービスの
 大切な心得なのだ)

そして、冒頭に至るわけだ。(後編に続く・・・)


[あとがき]
~The fun is the back ~《遊園地編》書いちゃいました~。
本編に混ぜるのは、少々畑が違うんで、番外編として。
本編でアレで、その後コレを続けるのは、余りにもロイが可哀相・・・。
なんで、番外編です・番外編。 あくまでも、こぼれ話って事でお楽しみ下さい。
前半、情けなさ全開スタートのロイさん・・・。
さすがに、これで終わりでは報われないでしょうから、笑わせてくれたお礼に
後編はサービスしよぉーと。(笑)


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